Research Topics

新しい半導体材料・デバイスによるフォトニクス技術分野の開拓
 光エレクトロニクスやフォトニクスと呼ばれる技術分野はこの半世紀の間に大きく発展し、私たちの生活に欠かせないものとなっています。 例えばレーザ光技術の発達は、光ファイバ通信や高密度光記録技術のベースとなり、現在の情報化社会を大きく発展させました。 その他にも、LEDなどの発光素子、太陽電池やCCDといった受光素子、そして液晶など、様々な光機能性を持った素子が生み出されました。 これらの分野は現在もさらに発展していっており、より高度な材料・デバイス技術を取り込んだ研究が進められています。
 その一方で近年では、高度に発展してきたこのフォトニクス技術を新しい分野に応用していくことも重要となってきています。 例えば、医療診断や生体物質分析、環境科学における計測技術として光波や光子技術の重要性はますます高まっています。 また、エネルギーや環境問題に対しては、太陽電池に代表されるようなグリーンエネルギー技術について理解を深めることも重要です。 さらには、ビッグデータ活用のための新しい量子演算技術として、ボーズ粒子性を持った光子状態の利用にも注目が集まっており、 若い皆さんが就職して退職間近になるころには、単純な電子工学に取って替わる分野として大きな発展を遂げているかもしれません。
 本研究グループの目標は、従来の半導体工学や光エレクトロニクス技術を基盤として、新しいフォトニクス技術分野を開拓していくことです。 現在は有機分子やペロブスカイトと呼ばれる新しい半導体材料を使用した新規フォトニックデバイスに注目しており、LEDやレーザ、太陽電池などの光電子デバイス技術に関して、 基礎物性探索からシステムへの応用検討まで、幅広く研究を展開しています。

2Dペロブスカイト 研究テーマ

  1. 室温共振器ポラリトン
  2. 有機/ペロブスカイト光電子デバイス
  3. 広帯域有機波長可変レーザ

1.室温共振器ポラリトン

フォトニクスやエレクトロニクスのデバイスを作製するためには、 使う物質の基礎物性への理解を深め、 材料としての機能性を制御することが重要です。 有機低分子や導電性高分子などの場合はπ共役系と呼ばれる電子状態を持っており、 高い発光特性や導電特性の発現に重要な役割を担っています。 これは従来のエレクトロニクスとはかなり様子が異なっており、 シリコンなどの無機半導体では「キャリア」の振る舞いを制御することが重要であったのに対し、 有機半導体では「励起子」(電子と正孔の対)を制御することがかぎとなります。 有機LEDや有機太陽電池もこの励起子状態を上手く取り扱うことで作製が可能になりました。 今後、超高効率な太陽電池や有機半導体レーザなどといったさらに高機能なデバイスを実現するためにも、 この励起子状態の制御技術を磨くことが重要だと考えています。
 本研究室では励起子状態の新たな制御手法として、 光(光子)との相互作用状態に注目しています。 光子と励起子が強く相互作用した状態は ポラリトンと呼ばれており、 半分が光、半分が電子(物質)の性質を持っています。 この状態の特性を正確に理解し、制御することにより、これまではなかなか操作しづらかった励起子状態の特性を大きく変えることができる可能性があります。 実際に、レーザに代表される高機能な光電子デバイスの開発は光と物質の相互作用を巧みに利用することで実現してきました。 新たな材料を使って新たなデバイスを研究、開発する上でも、光と物質の相互作用をより深く理解し、制御することが必要不可欠です。

有機分子単結晶の垂直微小共振器レーザ発振
 有機低分子材料は結晶化することで良好な半導体材料としての性質を示します。 特に(チオフェン/フェニレン)コオリゴマー(TPCO)と呼ばれる材料系の結晶(下図a)は極めて強い発光性能(振動子強度)を持つことが知られています。 本研究室では特殊なTPCO単結晶を用いることにより、有機結晶による垂直微小共振器型レーザ発振を初めて達成しました。(下図b, c) このTPCO結晶では1,000cm-1以上という超高利得性が発現可能であることも発見しています。
(a)         (b)       (c)

有機単結晶微小共振器における光-物質相互作用の制御
 先に述べた通り、「半分が光で半分が物質」というポラリトンの特性は次世代の新しい光電子デバイスを作製するために大変魅力的なのですが、 このような状態を実現するためには励起子と光子の相互作用をかなり強めなければなりません。 そのためには、材料と光の性質の両方に工夫を施すが必要となります。 本研究室では、上述の特殊なTPCO単結晶を用いて高Q値の微小共振器の作製に成功しました(下図a)。 これにより、光子と励起子を 強結合状態とすることに成功し、ポラリトン状態の生成を実現しました(下図b)。 様々な共振器構造を試作することで結合状態を解析し、これにより効率的なポラリトン形成において重要となるパラメターも明らかにしました。
    (a)         (b)

有機単結晶微小共振器における超高速ポラリトンダイナミクス
このポラリトン状態の一つの応用例として、ポラリトンレージングと呼ばれる新しい原理によるレーザ発光現象が知られています。 学術探索とデバイス応用の両面で魅力があり、有機材料を用いるとこれが室温でも得られると期待されています。 本研究室ではこれまでに、国外機関との共同研究により、この発光現象がどのように発生しているのかを、 非常に高速な光学評価技術で調べることに成功しています (超高速時間分解PL測定、下図a、および過渡吸収分光測定、下図b)。 「光との強い相互作用を使って物質の特性を変える」、もしくは逆に「物資との相互作用を使って光の特性を変える」 ことを実証できたことに大変意義のある成果です。
          (a)         (b)

垂直共振器面発光型レーザのアレイ作製
 デバイスの作製手法についての研究も色々と行っています。 例えば誘電体多層膜の高反射率ミラーと有機薄膜との組み合わせにより、 垂直共振器型の有機レーザ構造を作製することができます(下図a,b)。 このタイプの素子は半導体LDを励起光源として使用できるため、より実用的なコンパクトモジュール化が可能です。 本研究室では、活性層の母材としてフォトポリマーを用いた微細加工手法を用いて、 多色発振型のマイクロレーザアレイの試作を行いました(下図c)。 原理的にはフルカラー化や微細化も簡単です。
(a)   (b)   (c)

主要な研究成果

  • "Polarization superposition of room-temperature polariton condensation", Y, Moriyama, T. Inukai, T. Hirao, Y. Ueda, S. Takahashi and K. Yamashita, Communications Materials, Vol. 4, No. 110, Dec. 2023, 10.1038/s43246-023-00440-w
  • "Drastic transitions of excited state and coupling regime in all-inorganic perovskite microcavities characterized by exciton/plasmon hybrid natures", S. Enomoto, T. Tagami, Y. Ueda, Y. Moriyama, K. Fujiwara, S. Takahashi, and K. Yamashita, Light: Science & Applications,Vol. 11, No. 1, 8, Jan. 2022, 10.1038/s41377-021-00701-8
  • "Anisotropic light-matter coupling and below-threshold excitation dynamics in an organic crystal microcavity", T. Tagami, Y. Ueda, K. Imai, S. Takahashi, H. Mizuno, H. Yanagi, T. Obuchi, M. Nakayama, and K. Yamashita, Optics Express, Vol. 29, No. 17, 26433-26443, Aug. 2021, 10.1364/OE.425461.
  • "Ultrafast Dynamics of Polariton Cooling and Renormalization in an Organic Single-Crystal Microcavity under Nonresonant Pumping". K. Yamashita, U. Huynh, J. Richter, L. Eyre, F. Deschler, A. Rao, K. Goto, T. Nishimura, T. Yamao, S. Hotta, H. Yanagi, M. Nakayama, and R. H. Friend. ACS Photonics, Vol. 5, , pp. 2182-2188, 2018, 10.1021/acsphotonics.8b00041.
  • "Quantitative evaluation of light-matter interaction parameters in organic single-crystal microcavities". T. Nishimura, K. Yamashita, S. Takahashi, T. Yamao, S. Hotta, H. Yanagi, and M. Nakayama. Optics Letters, Vol. 43, No. 5, pp. 1047-1050, 2018, 10.1364/ol.43.001047.

2.有機/ペロブスカイト光電子デバイス

 有機半導体材料の最大の魅力は 塗布プロセスが可能なことや軽量でフレキシブルな基板上でも作製できることです。 これに加えて最近の材料開発の目覚しい進展により、材料の光学特性そのものも高品質化され、有機LEDの大きな普及に至っています。 また最近では、新しい塗布型の半導体材料として 鉛ハライドペロブスカイトにも注目が集まっています。 本研究室でもこれら塗布型光電子デバイス、特にこれまでは太陽電池の技術開発を行ってきました。 様々な環境問題、エネルギー問題に対して発電技術のさらなる発展が重要なことは言うまでもありません。 電気エネルギーを消費する研究だけでなく、電気エネルギーを生み出す技術を研究すること、 そしてそういったことを学生さんに勉強しておいてもらうことは、我々にとって大変重要なことだと思っています。

ドライ/ウェットハイブリッドプロセスによるペロブスカイト太陽電池の作製
ペロブスカイト太陽電池の作製において薄膜の成膜時に下層へのダメージを抑えることは、電力変換効率の向上や太陽電池構造の積層化(タンデム化)を目指す上で重要な課題の一つです。 この課題に対し本研究室では、ペロブスカイトを構成する材料を熱蒸着(乾式)とスピンコート(湿式)の二段階に分けて成膜することで、ペロブスカイト前駆体溶液の下地層への 直接接触を回避し、良質なペロブスカイト薄膜の作製を可能にしました(下図a,b)。 大気下の環境でも良好で安定した発電特性が得られています(下図c)。
   (a)     (b)   (c)

色素ドーピングによる有機薄膜太陽電池の増感作用
導電性高分子/フラーレン誘導体によるバルクヘテロ接合型太陽電池素子への色素ドーピングによる 特性改善効果について詳しく調べました。 開放電圧への増感作用に着目したところが我々の研究の特徴であり、 ある種の構造を持った色素分子を少しだけ混入することが、 開放電圧を向上させるような電子状態変化を引き起こすことを見出しました(下図a, b)。
          (a)        (b)

主要な研究成果

  • "UV ozone treatment for oxidization of spiro-OMeTAD hole transport layer", R. Hayashi, A. Murota, K. Oka, Y. Inada, and K. Yamashita, RSC Advances, Vol. 13, No. 27, pp. 18561-18567, Jun. 2023, 10.1039/D3RA02315J.
  • "Morphological and functional characterizations of SnO2 electron extraction layer on transparent conductive oxides in lead-halide perovskite solar cells", A. Murota, K. Oka, R. Hayashi, K. Fujiwara, T. Nishida, K. Kobayashi, Y. Numata, and K. Yamashita, Applied Physics Letters,Vol. 120, No. 19, 191604, May. 2022, 10.1063/5.0085559.
  • "Dry-wet hybrid deposition of wide-bandgap mixed-halide perovskites for tandem solar cell applications", S. Kanbe, J. Kagae, A. Murota, Y. Hara, K. Fujiwara, and K. Yamashita, Applied Physics Letters, Vol. 117, No. 17, 171901, Oct. 2020, 10.1063/5.0029784.
  • "Excitation dynamics in layered lead halide perovskite crystal slabs and microcavities", K. Fujiwara, S. Zhang, S. Takahashi, L. Ni, A. Rao, and K. Yamashita, ACS Photonics, Vol. 7, No. 3, pp. 845-852, Mar. 2020, 10.1021/acsphotonics.0c00038.
  • "Modification of dry/wet hybrid fabrication method for preparing a perovskite absorption layer on a PCBM electron transport layer", J. Kagae, T. Yamanaka, S. Takahashi, and K. Yamashita, RSC Advances, Vol. 8, No. 68, pp. 39047-39052, Nov. 2018, 10.1039/c8ra08022d.

3.広帯域有機波長可変レーザ

 レーザ技術の進歩は通信、医療、理工学、環境など様々な分野の発展に貢献してきました。 特に光を用いた分析技術は非接触、非破壊であるため、有害な物質や生体などの幅広い対象の分析においても非常に有用とされています。 この分析技術をさらに高度なものとするために重要な要素技術の一つとして、発振波長を連続的または離散的に調整可能な 波長可変レーザの開発があげられます。 この波長可変レーザでは一つのレーザ素子で複数の発振波長をカバーすることが可能なため、装置やシステムの小型化も期待されます。 また、波長可変レーザは照明やディスプレイ用途としても魅力的であり、研究開発が進められています。
 本研究室では、幅広い波長範囲で発振が調製可能な小型レーザ素子を実現するためには、有機材料を用いることが非常に有効であると考えています。 それを達成するために、材料物性とデバイス設計の両面でアイデアを絞った研究を行っています。

有機発光材料の共ドープによる高利得、広帯域光増幅の実現
 幅広い波長可変レーザ動作のためには、まず、 幅広い波長範囲で光利得を示す材料が必要です。 これを実現するために、、 色々な発光色を示す材料を単純に混ぜるということが、有機系の材料では可能なのです。 有機LEDなどの研究においては優れた発光性を実現するために複数の材料を混合する技術は一般的なのですが、本研究室ではこれを光増幅作用を持ったレーザデバイスにまで応用することを目指しています。
 これまでの研究において、単に材料の混合による光利得だけではなく、エキサイプレックスと呼ばれる新しい励起状態を利用してさらに光利得帯域を拡大すること成功しています(下図a)。 エキサイプレックスとは励起状態のドナーが基底状態のアクセプタと結合して生じる二量体のことであり、実際に広帯域な波長可変レーザ発振も確認されました(下図b)。
      (a)   (b)

有機材料による新規な波長可変共振器構造の設計
 波長可変レーザにおいて狭帯域の単一波長発振動作と動的な広帯域波長チューニングは重要な要素であり、特に後者はまだ開発途上にあります。 電力などの外部制御によって、いかに効率よく波長を変化させることとができるかが重要です。 本研究室では、加工が容易で材料柔軟性を持つ有機材料を適用し、様々な構造での波長可変共振器構造を検討しています。
 一例として、長周期導波路格子と有機色素ドープポリマー活性導波路から構成された非対称DBR共振器を示します(下図a, b)。 この非対称DBR共振器では小さな実効屈折率の変化で大きな発振波長の変化が得られることができるため、効率的な波長可変特性が得られます。 本研究室ではこれ以外にも、リング型共振器やマイクロキャビティ型共振器など、様々なタイプでの波長可変デバイスを設計/試作しています。
(a) (b)  

多波長集積型レーザ
 複数の動作波長を持つレーザデバイスは非常に有用であることが知られていますが、 従来のデバイスではガスレーザと固体レーザを組み合わるものなど大型なものが多く小型化が課題となっています。 小型化のためには固体化することが必要なのですが、無機半導体は一つの基板に複数の材料を成長させることは容易ではありません。 本研究室では柔軟性のある有機材料に着目し、ナノインプリントリソグラフィと呼ばれる技術を応用して単一チップでのRGB同時発振型レーザを作製しました(下図a)。 異なる色素をドープしたポリマー材料によるDFBレーザ層をSiO2基板上に積み上げた構造になっており、 光励起によるRGB同時レーザ発振による白色発光を得ることを達成しました(下図b)。
(a)   (b)  

主要な研究成果

  • "Broadband optical amplification of waveguide cut-off mode in polymer waveguide doped with graphene quantum dots", T. Nagafusa, Y. Hara, K. Nishio, T. Isshiki, and K. Yamashita, Advanced Optical Materials,Vol. 10, No. 10, 2200255, Aug. 2022, 10.1002/adom.202200255.
  • "A polymer film with ultra-broadband optical gain characteristics", Y. Hara, Y. Higase, M. Taguchi, S. Takahashi, F. Sasaki, and K. Yamashita, Applied Physics Letters, Vol. 116, No. 6, 063301, Feb. 2020, 10.1063/1.5129477.
  • "Compact solid-state organic laser with fine and broadband wavelength tunability", M. Taguchi, Y. Higase, and K. Yamashita, Optics Express, Vol. 27, No. 24/25, pp. 35548-35554, Nov. 2019, 10.1364/OE.27.035548.
  • "High-gain and wide-band optical amplifications induced by a coupled excited state of organic dye molecules co-doped in polymer waveguide". Y. Higase, S. Morita, T. Fujii, S. Takahashi, K. Yamashita, and F. Sasaki. Optics Letters, Vol. 43, No. 8, pp. 1714-1717, 2018, 10.1364/ol.43.001714.
  • "Simultaneous RGB lasing from a single-chip polymer device". K. Yamashita, N. Takeuchi, K. Oe, and H. Yanagi. Optics Letters, Vol. 35, No. 14, pp. 2451-2453, 2010, 10.1364/ol.35.002451.

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